大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(特わ)273号 判決 1983年2月15日

本店所在地

東京都千代田区麹町一丁目五番地

不二家不動産株式会社

(右代表者代表取締役渡邉通司)

本店所在地

東京都杉並区天沼一丁目三九町一四号

有限会社フジストアー

(右代表者取締役渡邉通司)

本店所在地

東京都港区虎ノ門三丁目一四番八号

有限会社フジヤ

(右代表者代表取締役渡邉通司)

本籍

東京都練馬区練馬一丁目六〇八二番地

住居

同都同区練馬一丁目二番九号

会社役員

渡邉通司

昭和二年一〇月二三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人不二家不動産株式会社を罰金一八〇〇万円に、

被告人有限会社フジストアーを罰金一一〇〇万円に、

被告人有限会社フジヤを罰金一〇〇〇万円に、

被告人渡邉通司を懲役一年六月に

それぞれ処する。

被告人渡邉通司に対し、未決勾留日数中一二〇日をその刑に算入する。

被告人渡邉通司に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人不二家不動産株式会社(以下「被告会社不二家不動産」という。)は、東京都千代田区麹町一丁目五番地(昭和五四年五月一四日以前は同都練馬区練馬一丁目二番九号)に本店を置き、不動産売買業等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社、被告人有限会社フジストアー(以下「被告会社フジストアー」という。)は、東京都杉並区天沼一丁目三九番一四号(昭和五四年六月三〇日以前は同都練馬区練馬一丁目二番九号)に本店を置き、不動産売買業等を目的とする資本金二〇〇万円の有限会社、被告人有限会社フジヤ(以下「被告会社フジヤ」という。)は、東京都港区虎ノ門三丁目一四番八号に本店を置き、不動産売買業等を目的とする資本金一〇〇万円の有限会社、被告人渡邉通司(以下「被告人渡辺」という。)は、被告会社不二家不動産の代表取締役(昭和五四年七月一〇日以降昭和五七年一〇月七日までは実質経営者)として、被告会社フジストアーの取締役として、また、被告会社フジヤの代表取締役として、右各被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人渡辺は、右各被告会社の業務に関し、右各被告会社の法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外し、架空の業務委託手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年九月一日から昭和五四年八月三一日までの事業年度における被告会社不二家不動産の実際所得金額が一億〇〇八五万九五八七円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年一〇月三一日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二八二万五五四五円でこれに対する法人税額が一六七万五一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第六一〇号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六〇六〇万五一〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)と右申告税額との差額五八九三万〇〇〇〇円を免れ、

第二  昭和五三年一月一日から昭和五三年一二月三一日までの事業年度における被告会社フジストアーの実際所得金額が六五四四万六八二二円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年二月二八日、東京都練馬区栄町二三番地所在の所轄練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五八四万六三七四円でこれに対する法人税額が二七一万七六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三五七三万三一〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)と右申告税額との差額三三〇一万五五〇〇円を免れ、

第三  昭和五四年一月一日から昭和五四年一二月三一日までの事業年度における被告会社フジストアーの実際所得金額が一四三八万四二八四円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年二月二七日、東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号所在の所轄荻窪税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が八九万三〇三二円で納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七五七万七四〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ、

第四  昭和五四年八月一日から昭和五五年七月三一日までの事業年度における被告会社フジヤの実際所得金額が七三九五万八八九五円(別紙(四)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年九月三〇日、東京都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五二五万〇八二〇円でこれに対する法人税額が四一三万四四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の4)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三八九五万三六〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)と右申告税額との差額三四八一万九二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人渡邉通司の当公判廷における供述

一  被告人不二家不動産株式会社の前代表取締役池田英一の当公判廷における供述

一  被告人渡邉通司の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の被告人渡邉通司に対する質問てん末書

一  被告人渡邉通司作成の各申述書

一  証人渡部昭典、同飯田茂良、同常盤恭及び同小柳幸雄の当公判廷における各供述

一  飯田茂良(五通)、常盤恭(二通)及び服部英中(一通)の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官伊東国雄作成の各捜査報告書

一  株式会社三和銀行虎ノ門支店営業課長三俣恒一作成の証明書

一  検察官江川功、各被告会社、被告人渡邉通司及び被告人らの弁護人真壁英二共同作成の合意書面

一  押収してある法人税申告書控綴四綴(昭和五七年押第六一〇号の5、11、12及び14)、不二家その他借受金弁済表等綴一綴(前同号の6)、ダイアリー二綴(前同号の7及び9)、競落許可決定等綴一綴(前同号の8)、元帳一綴(前同号の13)、金銭消費貸借契約公正証書謄本一袋(前同号の15)、法人税確定申告書五袋(前同号の16ないし19及び23)及び所得税確定申告書三袋(前同号の20ないし22)

一  収税官吏作成の昭和五六年一二月二二日付土地重課税調査書(被告人不二家不動産株式会社及び被告人渡邉通司の関係で)

一  麺町税務署長作成の証明書(前同)

一  東京法務局登記官作成の各登記簿謄本及び閉鎖した役員欄の各用紙の謄本(前同)

一  東京法務局練馬出張所登記官作成の昭和五七年一月一一日付閉鎖登記簿謄本並びに閉鎖した役員欄及び目的欄の各用紙の謄本(前同)

一  押収してある法人税確定申告書二袋(前同号の1及び10)(前同)

一  収税官吏作成の同年二月八日付土地重課税調査書(一三丁のもの)(被告人有限会社フジストアー及び被告人渡邉通司の関係で)

一  検察事務官須田浩造作成の捜査報告書(検察官請求証拠番号甲49のもの)(前同)

一  荻窪税務署長作成の証明書(前同)

一  東京法務局杉並出張所登記官作成の登記簿謄本(前同)

一  東京法務局練馬出張所登記官作成の昭和五六年一二月九日付閉鎖登記簿謄本(前同)

一  押収してある法人税確定申告書二袋(前同号の2及び3)(前同)

一  収税官吏作成の同年二月八日付土地重課税調査書(九丁のもの)(被告人有限会社フジヤ及び被告人渡邉通司の関係で)

一  検察事務官須田浩造作成の捜査報告書(検察官請求証拠番号甲50のもの)(前同)

一  芝税務署長作成の証明書(前同)

一  東京法務局港出張所登記官作成の登記簿謄本(前同)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同号の4)(前同)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、有限会社トーワ(以下「トーワ」という。)ないし、その代表取締役である渡部昭典(以下「昭典」という。)に対して、業務委託手数料として、被告会社不二家不動産において、昭和五四年八月期に合計一八八四万円(別表番号11、12及び14ないし16)を、また、被告会社フジストアーにおいて、昭和五三年一二月期に合計三二九二万円(別表番号17ないし25、27、28、31、32、41及び44)をそれぞれ支払っており、これらは、いずれも損金に計上できるものであるから、判示第一及び第二の各所得金額については、右各金額を控除した金額が実際所得金額となるべきものである旨主張する。

一  よって、判断するに、前掲証拠によれば、次の事実が認められる。

1  被告人渡辺は、昭和二一年九月ころから衣料品の小売業を始め、昭和二六年七月に法人成りして有限会社矢沢屋を(昭和三七年一〇月に有限会社フジストアーと商号変更)、別に昭和三九年一一月に被告会社不二家不動産の前身である株式会社フジコーをそれぞれ設立して、衣料品の小売業を営んでいたが、その後菓子販売業も始め、更に、昭和四五年五月ころからは不動産業も始めるようになり、そのため、昭和四七年八月に、右株式会社フジコーを不二家不動産株式会社と商号変更し、同被告会社において不動産の売買、仲介業等を営んでいた。

2  被告会社不二家不動産は、昭和四八年ころから、主として東京地方裁判所におけるいわゆる競売物件を競落してこれを他に転売し、この転売利益の取得を目的とするようになり、そのため、右業務に詳しい昭典及び同人の友人の常盤恭(以下「常盤」という。)らを従業員として雇い入れ、昭典らをして、競売物件の権利関係の調査、占有者に対する立退・明渡しの交渉等の業務(以下、これを「調査・明渡業務」という。)を行わせていた。

3  ところが、昭和五〇年秋ころ、昭典と常盤が独立して、有限会社西福商事で共同の金融業を始めることとなったため、被告人渡辺は、そのころ、右西福商事の貸付資金として、常盤を借主、昭典を連帯保証人とする公正証書により金三〇〇〇万円を利息月三分の約束で貸し付け、更に昭典らが昭和五一年四月ころに新たにトーワを設立して右西福商事に関する債権債務を引き継ぎ、金融業を継続した後も、右トーワの営業資金を貸し付けてきた。

4  一方、被告会社不二家不動産は、昭典らが右のように金融業を始めた後、飯島種雄らに依頼して、調査・明渡業務に従事させていたが、思わしくなかったので、昭和五二年二月ころに、調査・明渡業務をトーワに委託し、再度、昭典に同業務を履行させることとしてその旨依頼し、同人もこれを了承した。

5  右昭和五二年二月以降業務委託が解消されるまでの昭和五四年七月ころまでの間、被告会社不二家不動産、被告会社フジストアーのほか、同様の業務を営むため被告人渡辺が昭和五三年八月に設立した被告会社フジヤ及び同じくそのため被告人渡辺が先に取得して同月ころに代表取締役となった株式会社ワタシン(以上被告会社三社及び株式会社ワタシンについて、以下「被告会社ら四社」という。)からトーワに対して業務委託がなされた物件は、ほぼ別表記載のとおりであり、うち、番号1ないし40は、右各会社の法人税確定申告の際に損金として計上されているものである。

6  他方、被告人渡辺は、昭和五二年七月ころまでトーワないし昭典に対して金銭を貸し付けてきたが、同年九月二七日ころ、その返済計画を明らかにさせ、その後、昭和五四年六月ころまでの間に約二九五〇万円の返済を受けたうえ、同月末ころか翌七月上旬ころ、トーワの代表者である前記昭典との間で貸借関係に関する突き合せを行い、その決済について両者間で話し合い(以下「本件話し合い」という。)を行った。

7  被告人渡辺は、昭和五四年七月二四日にエイト設計株式会社(以下「エイト設計」という。)を設立して昭典を代表取締役の一員に加え、同人に月額一二〇万円の報酬を支払って、以後、被告会社らによる前示の調査・明渡業務をエイト設計に委託し、同会社に業務委託手数料を支払うようになった。

以上の事実が認められ、これらの事実は被告人らにおいても概ね争いのないところでもある。

二1  ところが、弁護人は、被告人渡辺の当公判廷における供述を基礎に、前記一4の際に、すなわち、被告会社不二家不動産がトーワに対して調査・明渡業務を委託した際に、同被告会社は、トーワに対して利益の三割に相当する金員を業務委託手数料として支払う旨約し、更に、同年九月二七日ころには、被告会社不二家不動産は、以後右業務委託手数料の支払いに代えて、右業務委託手数料をもってトーワないし昭典の被告人渡辺個人に対する前記借受金の弁済に充てることとし、トーワないし昭典もこれを了承し、本件話し合いの際に「精」算されるに至った旨主張し、併せて右約束に基づいて、被告会社不二家不動産がトーワないし昭典に支払ったこと(したがって、トーワないし昭典の被告人渡辺に対する借受金の弁済に充てられたこと)とされた業務委託手数料の額及びその物件名は、別表の番号3ないし7、9ないし12及び14ないし16のとおりであり、また、右の約束を了解した被告会社フジストアー、被告会社フジヤ及び前記株式会社ワタシンがトーワに支払ったこととされた業務委託手数料の額及びその物件名は、別表番号17ないし25、27、28、31、32及び37ないし39のとおりであり、右は、昭典作成の「不二家その他借受金弁済表」及び「不二家定期借受金弁済表」と題する書面各一通(昭和五七年押第六一〇号の6)に記載された金額と同一である旨主張する。

2  しかし、昭典は、公判証言で業務委託手数料支払いの事実を否定し、被告人渡辺も検察官に対し、これと同旨の自白をしている。もっとも、弁護人の主張や被告人渡辺の弁解等に鑑み、こうした証拠とりわけ昭典の証言の信用性については、慎重な検討を要することはいうまでもない。しかしながら、関係証拠を検討しても、後述するもの以外に、弁護人主張の被告会社らにおいて、本件各事業年度の法人税の所得計算上、これに影響を及ぼすようなもの、特に損金に計上し得るような業務委託手数料の支払いにつき、弁護人の主張を認めて、検察官の立証に合理的な疑いを抱かしめるようなものはなく、弁護人の右主張は理由がない。弁護人において特にその信用性の有無を問題とする昭典の公判証言や被告人渡辺の検察官に対する自白も、右認定に添う限度で信用できるのであり、被告人渡辺や証人常盤らの公判供述中、これに反する部分などは信用することができない。以下、その理由について説明を補足する。

三1  まず、別表記載の業務委託手数料(以下、特段の説明がない限り、これを「本件手数料」ということがある。)について、その支払いを約する書面や、相殺等を含め、これが支払われたことを直接証する書面などの作成されていないことは、被告人渡辺も自認しているところである。もっとも、関係証拠によれば、前示のように被告会社ら四社において法人税の確定申告にあたり損金として計上した分については、トーワ名義の領収証が作成されているが、これらは、いずれもトーワの正規の印章が押捺されたものではなく、被告人渡辺が勝手に注文して作らせた印章を押捺して作成したもので、もとより金額やその算定根拠なども、本件で弁護人が主張し、被告人渡辺も弁解するところのものとは異なっていることが認められる。

2  しかし、関係証拠によれば、弁護人の指摘にもみられるように、トーワが業務委託を受けるようになった昭和五二年二月ころ、トーワないし昭典は多額の貸付金の回収困難から新規の貸付資金に窮していたうえ、トーワが受託した業務の量も少なくなく、これに従事するトーワの従業員給与もトーワの負担であったことが認められる。弁護人指摘の前示「不二家その他借受金弁済表」は、同じく「不二家定期借受金弁済表」とともに、本件話し合いに備えて、その直前ころ昭典の手で作成されたものであるが、その昭和五二年三月四日の借方欄に「渋谷署関係 藤田借受 五五〇〇〇〇」の記載が見受けられるところ、関係証拠によれば、これは、昭典らが被告会社不二家不動産から委託された業務(この物件は別表に記載されていない。)の遂行中に行き過ぎがあって渋谷署に逮捕されたため生じた費用で、被告人渡辺から支出されたものであることが認められ、無償でありながら、こうした費用までトーワないし昭典の負担としなければならないかは、なお疑問の余地がないではない。このような諸事情に鑑みると、本件業務委託が有償的なものであったとする公算は決して少なくないといえる。加えて、前記各弁済表では、被告人渡辺に対する借受金債務のほか、トーワの受け取るべき業務委託手数料が物件名ごとにそれぞれ記載されていて、この業務委託手数料を右借受金から控除する形で弁済の計算がなされ、既に約一二〇〇万円が過払いとされているのであり、この業務委託手数料がなければ、右各弁済表の記載でみるかぎり、被告人渡辺に対する借受金の元利合計額が完全に弁済されたとみることは不可能であるが、それにもかかわらず、前示認定のように、その直後エイト設計が発足していることに鑑みると、トーワないし昭典の前記借受金債務について被告人渡辺と昭典との間で何らかの決着がつけられたとみるのが自然ともいえるのであり、この決着は、本件手数料の肯認を前提として初めてなし得るものとも考えられるのである。

以上のようにして、本件においては、被告人渡辺の弁解に添うかのような事情も少なくない。

四  しかしながら、本件においては、以下に認定・判示するような事情が認められるのである。すなわち、

1  被告人渡辺は、前示不動産業のかたわら個人で金融業を営み、従業員であった昭典や常盤に手伝わせ、その報酬として利益の二割を支払うと約束しながら、これを履行しなかった代償の趣旨もあって、前記独立の際に前示のように三〇〇〇万円を貸し付け、その後も融資を継続するなどして昭典らとの関係を持続させてきたものであることが認められ、被告人渡辺と昭典の関係に、こうした一面のあることも見逃すことができない。

2  そして、昭和五二年に入ってからのトーワないし昭典の経営状況が前示のとおりであるとしても、被告人渡辺は、昭和五二年六月及び七月にも、トーワないし昭典に対して、それぞれ一九〇万円及び五〇〇万円の新規貸付けを実行しているうえ、トーワないし昭典には、なお貸付金回収の余地が残されていたし、回収業務に付随した競落業務などで別途に収入を得る途もあり、反面、常盤が事実上トーワから手を引いたころからは、従業員も月額一五万円の給与を支給すればよい小柳幸雄一人に過ぎず、被告人渡辺に対する貸付金の返済を別とすれば、トーワには本件手数料の支払いを受けなければならない差し迫った事情のなかったことが認められる。弁護人の主張によっても、本件手数料に関する約定が貸付金との決済を意図してなされたとされているのであって、このことは、かえって右の認定に添うものとすらいえないではない。

3  そもそも、業務委託手数料の支払いがないとしても、貸付けを受けた多額の元利金について、その取立ての猶予を受けるだけでも、大きな代償といえるのであり、右手数料の支払いがないことから、当然に業務の委託が全くの無償になるものとは考えられない。

4  前示認定のように、被告会社ら四社の法人税確定申告に杜撰なものがあることは、そもそも確たる支払約束がなされていなかったこと、すなわち業務委託手数料の計上自体が架空のものであることを物語るとも解することができる。

5  なお、昭典は、昭和五二年九月二七日ころ、前記一6記載のとおり、被告人渡辺に対して、同被告人に対する借受金残債務の返済計画を明らかにしたが、そのため作成したと認められる「不二家弁済予定表」と題する書面(前同号の6)には、その時点で、すでに当然返済資金として記載されてもよいと思われる業務委託手数料についてすら、その記載がない(なお、被告人渡辺は、右書面の作成時期等を争うが、その記載内容等に照らし、その弁解は信用できない。)。このことは、右書面作成の時点では、業務委託手数料の支払約定がなかったことを推測させるものといえる。

6  前示「渋谷署経費」については、前記「不二家その他借受金弁済表」のほか、右の弁済予定表の借方欄にも記載されていることが認められるが、昭典は、これら借方欄の記載は、その他のものを含め、必ずしも同人が最終的に支払義務を認める趣旨のものではなく、被告人渡辺との話し合いにおいて、最悪の事態を想定し、およそ債務とみられかねない余地のあるものをすべて網羅・列挙したものであると証言している。そして「渋谷署経費」の生じた物件は、渋谷区神山町のNHK前のものと推測されるところ、これに対応する業務委託手数料については、弁護人主張のなかにも見受けられない。もし、個別の話し合いで業務委託手数料が支払われていたとすれば、右の「経費」はその際当然に差引き清算されていたともみられるのであり、そうであるなら、右の弁済予定表や弁済表に記載されるはずはないともいえる。あるいは、トーワは無償で委託業務を行っていたけれども、昭典らが行き過ぎの行為をしたため、その分の費用については特にトーワないし昭典の負担としたものと考えることもできないではない。

7  なるほど、昭典作成の前記各弁済表には、前示のとおり、業務委託手数料の記載があり、これが借受金債務の弁済に充てられた計算がなされているけれども、昭典は、当公判廷で「被告人渡辺の利益の三割を業務委託手数料として支払ってもよいかの言葉を信じて、これが支払いを強く期待していたため、本件話し合いを自己に有利に導くため、仮に利益の三割に相当する金員を業務委託手数料として支払ってもらえるとすれば、トーワないし自己の被告人渡辺に対する借受金債務は過払いになっているという趣旨で記載したものに過ぎない」旨証言している。そして、右の各弁済表の記載が被告人渡辺と昭典の合意の結果を記載したものでないことは、被告人渡辺も当公判廷で自認しているところであり、真偽は別として、被告人渡辺は、本件話し合いに備えて、そのころ別途清算に関する表を作成したが、その業務委託手数料に関する記載は、昭典作成の右弁済表と一致しなかった旨供述している。前示のように、業務委託手数料の支払いが昭典と被告人渡辺との間で問題とされたことは否定できないものの、その額の計算方法や基礎となる金額(例えば、不動産取得税等の税金はどうするのか、借入金の利息はどうするのか等)について、被告人渡辺と昭典との間で具体的に話し合われて確定された形跡はなく、単に、業務委託を始めるにあたり利益の三割を手数料として支払ってもよいかのような話があったに過ぎないことが認められる。また、計算に必要な各物件の転売価格や利益などについて、昭典側に通知されていなかったことは被告人渡辺も、当公判廷において認めているところである。こうした事情は、単に、金額決定の細目が煮詰められていなかったというにとどまらず、業務委託手数料支払いの確定した約束が最後までなされていなかったことを示すものとすらいえる。

8  更に、右の弁済予定表や各弁済表に被告人渡辺に対する債務として記載された金額につき改めて検討するに、定期借受金とされている三〇〇〇万円融資のいきさつは前示認定のとおりであるうえ、これを含め被告人渡辺の約定貸付利率は、原資が主として市中の金融機関から比較的低利で調達されていたにもかかわらず月三~四分と高率で、もとより利息制限法の制限利率を遙に超過するものであって、それにもかかわらず昭典はこの利息を前示業務委託の話が出るころまで相当期間にわたって支払っていたことが認められる。また、右弁済表等に記載の債務のなかには、常盤が一次的に負担すべきものや、昭典と常盤が共同ないし連帯して負担すべきもの、あるいは「渋谷署経費」のような性質のものも見受けられる。こうした事情のあることは、前記各記載の債務額のなかで昭典が最終的に返済の責任を負担すべき金額について話し合いの如何によって、かなり減額の余地が残されていたことを物語るものともいえる。

9  また、業務委託手数料を支払うべき義務者は被告会社ら四社であり、その支払いを受けるべきものはトーワであるが、他方、貸金債権を有しているのは被告人渡辺個人であって、しかも、その各相手方がトーワなのか、昭典ないし常盤個人なのかは、弁護人の主張や被告人渡辺の弁解によっても必ずしも明確にされているとはいえない。したがって、本件手数料債権をもって貸金債務の弁済に充て清算するといっても、単純な二当事者間の相殺ないし相殺契約、あるいは、これに準ずる方式ということはできない。その法律関係は三~四角関係ともいうべきものであって、もとより、こうした当事者間でも現金の授受を伴わない決済や話し合いは、法律上は可能であろうが、その実現のためには、各個人ないし法人において、法律・会計・税務の各面でそれなりの対応措置をとるべきことが必要となる。こうした事情に照らして考えると、被告会社ら四社とトーワないし昭典との間で新たに業務委託手数料の支払債務を発生させ、これが相殺ないし相殺契約等により借受金の弁済に充てられたと考えるのは、いささか無理があり、不自然の感を免れず、より端的に、トーワが手数料の支払いを受けることなく委託業務を遂行してきたので、これを考慮して、被告人渡辺において、自己のトーワないし昭典に対する貸金の返済を求める意思を放棄し、この債務を免除したものと解する余地も十分にあるということができる。そもそも、各個人ないし法人において、前示の法律・会計・税務上の措置がとられたことを具体的・個別的に示す客観的証拠は何ら存在しないのである。

10  被告人渡辺は、本件について国税局の取調べを受けたことから、口裏を合わせるため、昭典に対して、純利益の約三割の業務委託手数料で貸付債務をなし崩しに弁済することに同意した旨記載のメモを渡して、これと同旨の供述をして欲しい旨頼んでいることが認められる。被告人渡辺は、虚偽の供述を依頼したものでないと弁解しているが、関係証拠によって認められる本件発覚後の被告人渡辺の言動に照らしてみると、この弁解は到底信用のできるものではない。

11  被告人渡辺や昭典、更には常盤までが貸付けに関与していた虎ノ門・和合院(住職服部英中)の件について、昭和五四年六月から七月にかけて競落手続等により決済されて、一応の決着をみたことが認められる。このことが、右以外のものに当たる本件貸借関係について被告人渡辺と昭典の本件話し合いをもたらし、ひいてはエイト設計発足に至らしめたと解することもできる。これに対して、エイト設計発足のきっかけをもって、直ちに、業務委託手数料の支払いがあり、かつその合計額が貸付金の元利合計額に見合う程度に達したからとみる見方も考えられないではない。しかし、被告人渡辺の弁解によっても、その合計額は右の程度に達していなかったというのであり、昭典の証言によれば逆に計算上貸付けに転じていたというのであって、前述の見方は必ずしも当を得たものということはできない。

以上の事実や事情が認められる。こうした点をも併せ考えると、昭和五二年二月ころに被告会社不二家不動産からトーワに対して業務委託がなされた際、併せて報酬(業務委託手数料)の支払約束があったものとみることは無理で、その時点で未だ損金に計上し得る程の明確な報酬ないし手数料の支払約束はなかったものと認めるのが相当であり、右の手数料を支払うか否かは後日の両者の協議に委ねられており、同年九~一〇月ころにもこうした約束はなく、昭和五四年六月末ころか七月上旬ころに行われた本件話し合いの際にも、トーワにおいて調査・明渡業務を遂行させてきたこともあって、結局、トーワないし昭典において負担すべき残存貸付債務の額についてはもとより、右の手数料支払義務の存在やその金額などについても、確定されないままに以後、関係者間になんらの債権債務がないものとして決着をみるに至ったと認めるのが相当である。そして、このような場合には、いまだ被告会社ら四社において損金に計上することのできる業務委託手数料の支払いはなかったと解するのが相当である。前記三で指摘した諸事情も、いまだ右認定を左右するものではない。

五1  もっとも、昭典は、本件話し合いの際に、被告人渡辺から要求されて現金一〇〇〇万円を銀行預金から出金して支払った旨証言している。検察官はこれを裏付けるため、昭典が昭和五四年七月一三日に三和銀行虎ノ門支店渡部昭典名義の普通預金口座から一〇〇〇万円の払戻しを受けている証拠を提出している。しかし、右一〇〇〇万円の支払いについては、被告人渡辺において捜査・公判の各段階を通じてこれを否認しているところである。もとより一〇〇〇万円の受領を認めることは、被告人渡辺個人の所得申告にも影響するところであって、右弁解の真偽については慎重な検討が必要であるうえ、証人小柳幸雄も昭典の証言に沿う供述をしているのであるが、右の一〇〇〇万円の授受について領収証の発行されていなかったことは昭典も認めているところであり、その他この授受を示す客観的証拠もないことに鑑みると、一〇〇〇万円授受を肯認するには、証拠上なお十分でないものがあるといわなければならない。しかし、こうした事情を考慮にいれても、いまだ前記四の認定が左右されるものとは思われない。

2  被告人渡辺の検察官に対する自白は、当裁判所で取調べの供述調書の記載からみる限り、前記弁済予定表や各弁済表を検察官から示されて供述した形跡が認められず、和合院に対する貸付けとの関連も十分に明らかにされていない。しかし、被告人渡辺も、右の各表の記載は不正確で、他に自分の作成した表があり、和合院関係の決済も別問題と供述しているのであって、こうした点を考慮に入れると、結局右のような事情も、業務委託手数料の支払いを否定する自白部分の信用性を疑わしめるほどのものとは思われない。

3  もっとも、当裁判所は、後記六において、現金による業務委託手数料の支払い一件を認定しているが、これも未だ前記認定を左右するには足りない。

結局、弁護人の主張は採用することができない。

六1  なお、被告人渡辺は、別表の番号33につき、これは、昭和五四年一月一二日ころにお年玉として現金五〇万円をトーワに支払ったものである旨当公判廷で供述している。

そこで、検討するに、右供述がかなり具体的であるうえ、昭典作成の前記各弁済表にも物件名、金額等の記載がないのであって、このことは、あるいは他の物件と異なり個別の約定があって支払済みであることを示すものと解する余地もあり、右被告人渡辺の供述を一概に虚偽のものとして否定し去ることはできず、むしろ、措信せざるを得ないものと思料される。そうすると、被告会社フジストアーの昭和五四年一二月期については、起訴金額より五〇万円を減じた一四三八万四二八四円をもって、同被告会社の実際所得金額とすべきである。

2  なお、その他、昭典作成の前記各弁済表に物件名、金額等の記載のないもので、業務委託の事実を窺わせるものもないではないが、転売利益が出なかったため業務委託手数料を支払う義務がなかったものや、もともと架空計上のもの、あるいは手数料支払約定のなかったものなどが認められるに過ぎず、いずれにしても、本件各対象事業年度の事業税を含む損金計上に影響を及ぼすような事情は見出せない。

七  その他、弁護人は、情状としてではあるが、売上除外に伴う損失その他の損金の存在を主張する。しかし、その主張自体に照らし、また証拠を検討しても、本件において、右主張に関連して各被告会社の所得計算に影響を及ぼすような事由は認められない。

(法令の適用)

被告人渡邉通司の判示各所為は、いずれも、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により、軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち一二〇日を右の刑に算入することとし、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

更に、被告人渡邉通司の判示第一の所為は、被告会社不二家不動産の、同第二及び第三の各所為は、被告会社フジストアーの、同第四の所為は被告会社フジヤの業務に関してなされたものであるから、右各被告会社については、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法第一六四条一項により、右罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、被告会社フジストアーの右各罪は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪の罰金額を合算し、右各金額の範囲内で、被告会社不二家不動産を罰金一八〇〇万円に、被告会社フジストアーを罰金一一〇〇万円に、被告会社フジヤを罰金一〇〇〇万円にそれぞれ処することとする。

(量刑の事情)

本件は、判示のとおり、不動産売買業等を営む被告会社の代表取締役である被告人渡邉において、合計四期にわたり、所得において合計二億四〇〇〇万円余を秘匿し、税額において合計一億三四〇〇万円余の法人税を免れたという事案であり、その所得秘匿率は約九六パーセント、税逋脱率は約九四パーセントに及んでいる。被告人渡邉は、前記のとおり、専ら裁判所の競売物件を取り扱い、これを転売して利益をあげていたものであるが、それ自体は格別責められるべきものでないとしても、転売のために強引に占有者を立ち退かせ、あるいは和解・示談に応じさせるなどしていたこともあり、現に、昭典らが渋谷署に逮捕されるという事態まで惹き起こしていて、法外ともいえる利益を挙げていたものである。被告人渡邉は、本件各犯行の動機として、自己のトーワないし昭典に対する貸金債権が回収困難な状態にあり、この損失を会社の脱税によって取り戻そうとした旨、あるいは、税金をまじめに納める気になれなかった旨供述しているが、前者については、もともと右貸付けの利息収入などは所得申告の対象としていなかったうえ、税法上貸倒れの処理も考えられるところであり、また、後者については、被告人渡邉の納税意識の希薄さを示すものとして、それ自体看過し得ないものである。更に、犯行の手段・方法についても、被告人渡邉は、トーワをダミー会社とする売上除外を行い、あるいは倒産ないし休眠会社を支払先とする架空の経費を計上し、更には、前示のとおり、架空の業務委託手数料を計上したうえ、領収証まで偽造しているものであって、甚だ芳しくなく、加えて、被告人渡邉は、本件各犯行に関する査察調査を東京地裁執行部の窓口で知り得た事情から事前に察知するや、自らあるいは従業員に命じて、帳簿類等を廃棄ないし隠匿し、更に、右の事前察知が国税局から秘密が漏れたことによるように見せかけるため、虚偽の投書を行い、あるいは、右翼関係とみられる団体の清流日本社に一〇〇〇万円の街頭宣伝車を寄付して、同団体の威力によって調査を中止させようとするなどしているものであって、以上の諸点に鑑みると、犯情は悪質である。

しかしながら、現在では、被告人渡邉も自己の行為を反省しており、今後は競売物件を取り扱わず、二度とかかる不祥事を起こさない旨述べ、修正申告も行ってこれに伴う諸税もその一部を納付し、残余の納付も期待できる状況にあり、また、本件については、前示のとおり、被告各社について業務委託手数料の損金計上が認められないものの、被告人渡邉個人の貸金につき、利息制限法の制限利率を超える部分もあるとはいえ、事実上一部弁済を受けられなくなったもののあることも否定できない。その他、被告人渡邉が約五か月余勾留されていたこと、これまでに前科・前歴がないこと等諸般の事情を考慮し、特に被告人渡邉に対しては、主文掲記の刑を量定したうえ、四年間その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)

別表

業務委託物件一覧表

<省略>

<省略>

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和53年9月1日

至 昭和54年8月31日

不二家不動産(株)

<省略>

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

(有)フジストアー

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

(有)フジストアー

<省略>

別紙(四)

修正損益計算書

自 昭和54年8月1日

至 昭和55年7月31日

(有)フジヤ

<省略>

別紙(五)

税額計算書

会社名 不二家不動産(株)

(1) 自 昭和53年9月1日

至 昭和54年8月31日

<省略>

税額計算書

会社名 (有)フジストアー

(1) 自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

<省略>

(注)番号11の税額は、番号7に対する税額23,378,400円に同族会社の留保金に対する税額213,900円を加算した金額である。

(2) 自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

<省略>

税額計算書

会社名 (有)フジヤ

(1) 自 昭和54年8月1日

至 昭和55年7月31日

<省略>

(注)番号11の税額は、番号7に対する税額26,783,200円に同族会社の留保金に対する税額119,000円を加算した金額である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例